2013年4月12日金曜日

【コラボ企画:正義君×カモミール】とくべつなひと【前編】


始まりはほんとに些細なこと


授業で何度も出会う彼
友達といつも楽しそうに笑いあっている、いつも賑やかで騒がしい彼

最初はそんな印象だった


彼と俺はあまりにもタイプが違ったから
俺たちは一生交わることがないと思っていた



____その時までは












『ね、僕らさー
いつも授業カブるよねー』




『___えっ・・・?』



だから君が話しかけてくれたとき
びっくりしたんだ

どうして俺なんかに話しかけてくれたんだろうって____















「____ルくん。カーールくんってば___」





「・・・・っ!」




「ちょっ・・・!ちょっと!な、何すんだよ!」

「んー?何って、キスだけどー?」

「キスだけどって・・・おかしいだろ!」

「ん?おかしい?」

「普通友達にキスなんかしないだろ!」




「えー?友達にもするっしょ~~キスくらい」

「しないだろ!まったく・・・!からかうのはやめろよな」

「僕はいつだって本気だしー?」


こいつは俺の親友で、悪友の「牧田正義」

大学に入学してしばらく経ったころ、ある日突然話しかけられて___
それから一緒につるむようになった。

正義は派手で、賑やかで、おしゃれで___俺とはまったく真逆なタイプだ




「・・・そういう態度がもう、人をおちょくってんだよ」

「えーーーwカール君、ちょっと神経質すぎーーwカルシウム足りてる?」

「た、足りてるよ!!ばかにすんな!!」

「うはwうけるーw」

「ウケるって・・・!なんもおもしろくないよ!!!この、ばか!!」

「wwww(爆笑)」

「笑うなっ!!」


彼といると刺激的で、楽しい。
自分が割と根暗なタイプだから、俺には正義がまぶしい。




彼みたいな人が、どうして俺といっしょにいてくれるのだろうか
俺みたいなタイプが物珍しいのだろうか

自虐的とまではいかないが、たまにふっと、そう思ってしまうことがある。

だって、彼は俺をからかって
あのように・・・・キスしてくるのだ




彼はいつもするりと俺のそばに近寄って、そのやわらかな感触を俺に刻み込んでいく

こういうことをするのはやめてほしい。

正義は、全然意識していないし、
俺の反応を見ておもしろがっているんだろうけど・・・・

そんなことばかりされたら、どうしていいのかわからなくなってしまう

正義はただの遊びでやっていることなのに
俺ばかり戸惑って、そのやわらかさにドキドキして___

ばかみたいだ。俺




こいつといると自分が心底まぬけで、つまらない人間だと思ってしまう

正義は俺といて楽しいんだろうか?
本当は退屈しているんじゃないんだろうか?

そんな風に考えていると、どんどんマイナスな方へ落ち込んでいってしまう
こんな自分が嫌になってしまう

だけど
俺は彼のそばから離れられなかった

正義は俺には無いモノを持っているから。

彼とつるむのはとても楽しくて___彼の隣はとても、居心地がよかった





「お!正義、こんなところにいたーー!何やってんのーー?」

「カール君と一緒にレポートやってたー」

「うわー、マジかよ。おつかれー」




「なぁ、なぁ、そこの公園で夏のイベントやってんの知ってる?」

「あー。イベント今日で最終日じゃーーん」

「そうそう、レポートの息抜きにさぁーちょっと行ってみねー?」

「うわーーーwちょ、それマジで魅力的なお誘いーー」




楽しそうに笑う正義を尻目に、俺はレポートに集中することにした。
彼らの目的は正義で、俺は「誘う対象」ではないのだから___俺には無関係な話だ。

(でも・・・正義、行くのかな・・・?)

そんな風に思っていても、正義がどうするのか気になってしまう
できることならこのままここにいてほしいし、イベントに行くのなら一緒に行きたい。

正義と一緒にいるとどんどん卑屈な考え方になってしまうのに
俺は、彼と一緒にいないと気が済まなかった。

じりじりとした思いをひた隠し、さりげなさを装って正義の方を覗うと・・・









____そこには俺の知らない正義がいた


誰のことも見ていない
悲しんでいるでもない、怒っているでもない___真っ暗な虚無を瞳に湛えたその表情・・・・

その瞳に吸い込まれそうになる。
さっきまであんなに明るく振る舞っていたのに_____




彼はたまに、こちらがはっとするような表情をすることがあった。
それはほんの些細な__瞬きをする間に訪れる闇

明るく、賑やかな彼が、オセロをくるりと裏返したかのように
黒で塗りつぶされてしまう




彼は心のなかに何を抱えているのだろう?
いつになったら、話してくれるのだろう?

たわいもないことを話す彼を横目で見ながら
俺は悲しくなる

彼が心の奥底まで踏み込ませてくれないモノを持っているという事実に




「あーー・・・でも、僕、まだキリのいいとこまで終わってないからーー
「また今度誘ってーーみたいな?」

「えーーマジかよーー」

「ゴメンねーー?w」

「はあー。じゃ、またこんどなーー」




「・・・・行かなくていいの?」

「んーーwまだ終わってないし、カール君、僕にいてほしそうだったしーー?w」

「なんだよそれ。俺のせいにすんなよな!」

「えーー?だって、すっごい、寂しそうな顔してたじゃーんwww」

「ええー!?してないし!」

「してましたーー」

「してない!!」


いつもみたいに軽口をたたく彼の表情からは、さっきみたいな昏さはもうどこにもなくて・・・
俺にも「みせてくれないのか」とよけいさみしくなったけれど




でも、それでも

数多くの友人の中から俺を選んで、いつも俺のそばにいてくれることに・・・

どこか優越感を感じていた
















夏のイベントが終わって少し経った頃、
俺たちはようやくレポートを完成させることができた。

二人でいると、いつもおしゃべりばかりはかどってしまうので・・・・提出期限ギリギリの提出だったが
やっと終わらせることができたのがうれしくて、俺たちは正義のマンションで飲み会をした

お酒は割と強い方だったが、解放感に後押しされ・・・俺は少し飲み過ぎてしまった






「___ル君。カール君」





「レポート終わったからって、ちょっと飲み過ぎでしょw」

「・・・・うっさいなぁ・・・」

「そろそろ起きないと、もう終電ない系ですよー」




「ん・・・・・うー・・・今日は、正義のとこ・・・・泊まる」

「もーー!そんなこといって、先週も泊まったでしょーー!」

「いいだろ・・・うっさいなぁ・・・・あたまに響くじゃん・・・」

「じゃあ、水飲みなさい。みずー」

「酔いがさめるから・・・やだ」

「ちょっとーー!ワガママなんですけどこの子ーー!w」

「・・・うっさい」

「・・・・・・・」



「・・・・あのさぁーカール君。
「そんなわがままばかり言ってると、キスしちゃうよー?いいのー?」




「てか、僕、キスだけじゃ足りなくてーーカール君のこと、襲っちゃうかもよ~?」



「・・・んー・・・いいよ・・・べつに・・・」



「え・・・?」




「まさよしは、やじゃないから・・・・」








「・・・カール君。

「ずるいよ、そういうの」


















____ふんわりとシトラスの爽やかな香りに包まれる。




ああ、この香りは・・・これは__正義の香りだ。
正義がいつもつけている甘く、優しいにおい

(まさよし・・・・?)

気が付いたら俺は正義の腕のなかに抱かれていた。
彼の長い指が、俺の火照った頬をゆっくりと撫でる・・・

俺はどうして正義の腕の中にいるのだろう?

あたまがふわふわする。足元がおぼつかない。
どうして正義は、俺をそんな風に、優しく撫でるのだろう?




「ん・・・・・っ」

ぼんやりと考えていたら躰をそっと押し倒される
唇に花びらのようななにか、柔らかなものが触れ、またそっと離された。

シトラスの香りがより一層強くなる。
湿り気を帯びたその、よく知っている感触の残滓を確かめるように俺は自分の唇を舐める

すると、どこかでくすり、と笑う声が聞こえた




そしてまたそっと、それを押し付けられる

「・・・まさ、よし・・・・だめ・・・・・」

「ヤじゃないでしょ?」

「でも・・・・・」

「カール君、気持ちよさそうじゃん」

いつもは頬に口づけをしてくれるのに
どうして今日は唇なのだろう?

ああ、そうか。これは夢なのだ。そうでなかったら、正義がこんなことするはずがない
だって、俺たちは友達で・・・・男同士なのだから。

でも・・・
髪を梳かれる感触。彼のあたたかな唇の感触が
すべてを曖昧にしていく




きもちいい。きもちいい。きもちいい。
唇を合わせることって、こんなに気持ちいいことだったんだ・・・・

触れられる心地よさと温かさに夢中になっていると
唇を強引にこじあけられ、熱い舌がぬるりと入ってくる

「んっ・・・・あっ・・・」

歯列をべろりとねぶり、、戸惑う俺を捕え、思い切り吸い上げられる
脳が蕩けてしまいそうなほど、痺れるくらいの快感____

俺の中の昏い欲望を暴いてしまうかのような・・・


そのあまりの悦楽に____俺は一気に目が醒めた





「・・・・まさ、よし・・・・?」





「あーーカール君。おはよ」




突然の覚醒に茫然とする。

正義は・・・いったい、何を・・・・・
どうして・・・・?

「正義・・・・今・・・・何を・・・・」

「何って___キスだけどーー?いつもしてるじゃんw」

「いつもしてるって・・・・・」




「や、やだ・・・・・っ!!」

正義の腕を渾身の力で跳ね除ける
唇にはまだ、あの生々しい感触が残っていて___どうしていいかわからない

「お前・・・・何して・・・・・!なんでっ・・・・・・!」

「あれー?もしかして~怒っちゃってる系?怒らないでよー
「てかー、カール君、イヤって感じしなかったけどな~」

「な・・・!それは、酔ってたからで・・・・・
「ていうか、俺たち・・・友達なのに、こんな・・・・・・っおかしいだろ!」

「う~ん」




「カール君は友達だけどートクベツな友達っていうか?」

「えっ・・・・?」

「だから、
「特別なコト、してるってだけじゃーん?」




「トクベツ」という言葉に心がぐらりと揺れる

トクベツ。
トクベツ。

そう、俺はいつも正義の特別になりたかった
彼のそばにいつでもいられる___トクベツな存在に


でも、こういうキスをすることが正義のトクベツなのだろうか?

わからない。
正義が何を考えているのか




「な・・・なんだよ、それ・・・・・お前、わけ、わかんないよ・・・・」

これ以上、正義の甘い感触に心をかき回されたくなくて
俺は彼から逃れるかのように背を向け、玄関の方へ歩き出した


____その時、





「カール君」

「・・・!」




突然腕を捕えられ、再び口づけをされる

「やだっ!正義・・・や・・・・っ」


口腔を割って入った舌がまた、俺を追い立てる
そして逃げ惑う俺をやすやすと絡め取り、強引に抱き寄せられる。

その腰が砕けそうなほど甘美な口づけ。
抵抗しようとするのに、指一本動かせない・・・・・



「やっ・・・・・まさ、よし・・・・・・」


力が抜ける・・・
自分の中の情欲を煽られていくかのような
暴かれていくかのような口づけに眩暈がしてしまう・・・

そして__否定の言葉とは裏腹に、躰の奥底で痺れるような悦びが弾けた

彼の熱い唇の感触を味わいたい
彼の意のままに溶かされたくてたまらない

薄暗い欲望がふつふつと煮え立って、止まらなくなってしまいそうになる


それがひどく恐ろしい。
このまま止まらなかったら、どうなる?

俺と正義は、一体どうなってしまうのだろう



「や・・・っ」




「やだってば・・・・!」

そう思った刹那、俺は正義の腕を振り払い___頬を張っていた


「やめろよ・・・!
「俺たち、友達じゃん・・・・・・友達とこんなこと、おかしい・・・!」




「こんな、キス・・・・正義とはしたくない・・・・・・!」




「・・・・」

「カール君にとって
「僕は特別じゃないってこと?」




「な・・・・ちがっ・・・・、そういうことじゃなくて・・・・」

どうしてそうなってしまうのだろう
話が噛み合っていないような、居心地の悪さを感じる

俺はそういうことを言いたいんじゃない・・・だって、正義は俺にとって・・・・・



「・・・あれ?カール君・・・もしかして、さっきのキスで本気になっちゃった~~?」

「・・・・え?」




「ごめんごめん、冗談だってばー!」


「___じょ、冗談・・・?」

「そうそう!カール君があまりにも酔っぱらってたからーーちょっと、からかいたくなっちゃっただけじゃん?
「だからー、あんま怒んないでよね~?」




冗談?


正義は・・・俺をからかってただけなのか?
あのキスが、冗談、なのか・・・?

「冗談で、こんなことすんのかよ、お前は・・・・」




「・・・・最低じゃん、お前・・・・・!」


ひどい。
あまりにも度が過ぎている

「戸惑う俺を見て、楽しかったか?いつもいつも、そうやって俺をからかって・・・遊んで・・・」
「される方の気持ち、考えたことあんのかよ!」

正義にとって俺って何なんだ?
これじゃあ、友達でもなんでもない。物珍しいペットかなにかじゃないか・・・・!




「・・・・・・・どこまで人を馬鹿にすれば気が済むんだよ・・・・!」

「最低・・・・!最低だよ!お前・・・・・!」


俺はそうやってまくしたてると___そこらへんに散らかしていた荷物をまとめて
正義の部屋から飛び出した



























親友だと思っていたのに


どうしてこんなことになってしまったのだろう
どうして正義は俺にあんなキスなんかをしたのだろう

本当に冗談なのだろうか

だとしたら、俺たちの関係はなんだったのだろう

俺は、親友だと思っていた。俺たちは親友で・・・・
俺たちの間には、確実な何か___絆のようなものがあると思っていたのに。

それが俺だけの一方通行だったのかと思うと
正義にとって、俺の存在はとるにたらない、その他大勢の一人だったのかと思うと

悲しくて悲しくてたまらない




どうしてこんなことになってしまったのだろう
俺はどうすればよかったのだろう?

あのままキスを受け入れていればよかったのだろうか


わからない。

わからないよ・・・・正義・・・・










答えがほしいのに、彼からはもう、答えを得ることはできなかった


その日から_____正義は俺の前から姿を消した




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