2012年12月8日土曜日

【短編】 飼い猫 【R-18】


一話完結短編 「飼い猫」












俺は昔、猫を飼っていた。
ベルベットのような、黒いしなやかな毛並みと紫紺色の瞳をもった
とても美しい猫。「ベル」

俺達家族はベルをとてもとても大切にした。
特に、俺とベルは大親友だった。

共に食事をし、共に遊び、共に眠る。いつも、どんなときでもずっと一緒だった。
ベルは俺のそばにずっといてくれて、俺の成長を見守ってくれていた。
離れることなんてないと思っていた

だけど・・・




「ごめんね、ベル。寮には、お前を連れていけないんだ」

高校入学と同時に俺は寮に入ることになっていた。当然、ベルともお別れだ

ベルは俺の友達であり、兄であり、父親だった。
彼からたくさんのことを教えてもらったように思う

「さみしいね・・・」

なんとなく切なくなって、そう話しかけると、ベルは紫紺色の瞳で俺をじっと見つめ、ひと声鳴いた。
その鳴き声がまるで別れを惜しんでくれているかのように思えて・・・俺はしなやかな体を抱きしめた。




あたたかい陽だまりのようなにおいのする毛皮に顔をうずめると
なんともいえない懐かしい気持ちなる。

「ベルのこと、忘れないよ・・・。離れていても、ずっとベルのことを考えているからね」

そう声をかけ、美しい毛並みにキスをする。
キスの雨を降らすように、鼻、首輪、前脚、耳にちゅっと口づけ、親愛のキスをした。

俺はベルに毎日キスを贈っていた。
ほんとにほんとに、大切だから・・・




そのとき・・・・母親が自分の名を呼ぶ声がした。

「___!ちょっとー!」

「!母さんだ・・・。ちょっと待っててね」

ベルとすごすつもりだったのに・・・
俺は少しげんなりしつつ、声がする方へ走った。

















母親のなんてことない用事を済ませ、ベルのもとへ向かう。
彼とゆっくり過ごせる時間には限りがあるので、少しでも多くベルといっしょにいたかった。

しかし、リビングへ戻ると、彼の姿はどこにもなかった

どこへいってしまったのか、家の中にいるのだろうか
彼がいそうなところをくまなく探していくと、俺の部屋のドアが、少し空いていた。
なんとなく不審に思い、部屋へ入ると







ベッドの上に見知らぬ男が座っていた。


「やぁ、____。」

男はやわらかな声で俺の名前を呼んだ。




「えっ・・・あの・・・・だ、誰です、か・・・」

どうして俺の名前を知っているんだろう

よほど不思議そうな顔をしていたのだろう。彼は俺の顔を見て、ふっ、と笑った。
とても魅力的な笑顔だった。




「君は知っているはずだよ。」

知っている・・・?この人のことを・・・俺が・・・?

男は歌うように、言葉を紡いでいく
気が付くと、息が吹きかかりそうなほどすぐ目の前に男の双眸があり、ドキリとする

美しい紫紺色の瞳。


その瞳に覚えがあり、はっと閃いた。

「べ・・・ベル・・・?ベルなの・・・?」

「そうだよ。」

「ど、どうして・・・その姿は一体・・・!?首、首輪は・・・?」





「首輪は、もういらないから取っちゃった。」



「えっ・・・それって、どういう・・・・」

俺は更なる疑問を投げかけようと口を開いたが
言葉を遮るように、飲み込むように男は・・・ベルは俺の唇を奪った。



「っ・・・・!」




俺は驚き、抵抗しようと腕をばたつかせるが
ベルは気にも留めようとしない。

いつの間にかがっちりとベルの腕の中に収まっていた。


長い、長い、キス・・・




「・・・はぁっ・・・!」

唇を解放されると同時に、俺は息を吸い込んだ。とにかく苦しくて、窒息してしまいそうだった

「キスの時は息をとめなくていいんだよ。鼻から吸うの」
顔を真っ赤にして息を吸い込む俺をちらと見ると、ベルはくす、と笑った。

「な・・・笑うなんてひどいよ!俺、こんなの初めてなんだよ!どうすればいいかなんてわかんないよ」
そっちが勝手にキス・・・してきたんじゃないか・・・!
笑われたことがひどく悔しくて抗議の声をあげる。

ベルはそんな俺の様子を眩しそうに見つめ、白いしなやかな指をそっと伸ばし頬に触れた。




「ごめんね。突然だったもんね。わかんないのも、しょうがないよね
「でも、嬉しくて・・・したくなっちゃったんだ。きみがここにいるうちに・・・・・・・ごめんね?」

真摯に、どこか苦しそうに言いつのるベルに・・・心臓がドキリと跳ねた。




「いや・・・べ、別に怒ってないし・・・」

おずおずと口にすると、ベルはホッとしたようだった
俺はその様子に安堵する。


ふと、ベルが人間になってしまったことを
当たり前のように受け止めている自分がいて・・・少し驚いた・・・

でも、なんだかどうでもいいことのように思われた。


どんな姿でも、ベルは・・・ベルだから・・・





しなやかな体をそっと抱きしめると
あたたかくて懐かしい、陽だまりのにおいがする。

回される腕の強さと優しさに、じんわりと嬉しさが広がっていく




「ベル、ねぇ・・・ちょっとかがんで?」

「えっ・・・?」

俺は、随分と背が高くなってしまったベルをかがませると




鼻にちゅっとキスをした。
そして、いつものように首輪と前脚・・・首筋と手の甲にキスを落とす。

さっきのベルが、あまりにも切なそうだったから。だから、親愛のキスを送りたかった。

「ベル、背、おっきいね。ちょっとたいへんだよ」




「・・・・」




そう俺がこぼすと、ベルはふっと笑って俺の手に口づけをした。

「ベル・・・?」

「いつもの、おかえしだよ。」

「おかえし・・・?」

そういって彼はまたキスを落とす。
そうか・・・俺がいつもやってるから・・・




お返しをしてくれるのは嬉しい。でも・・・人の姿をしたベルはあまりにも美しくて、気が引けてしまう
というか・・・恥ずかしい・・・

俺は羞恥のあまり身をよじったが、ベルはキスをやめてくれそうになかった。




首輪の代わりに首筋にそっと口づけ、
耳の代わりに耳たぶを優しく食む。

「ふ・・・・」

くすぐったいような・・・ぞわりとした刺激を感じて身を震わせると
ベルは俺の耳たぶをねっとりと舐めしゃぶり始めた。




「やっ・・・くす、ぐったい・・・」

なにか得体の知れない感覚に翻弄される。
底知れぬ恐怖を感じて、ベルの腕をつかむが、ベルは執拗に耳をねぶる。

ベルが耳朶を噛んだり、吸ったりするたびに
身体がびくりと跳ね上がり、熱を帯びる

こんな感覚は初めてだった
なにかいけないことをしている気がして、とても怖かった。




「やだ・・・っ、ベル・・・やめて・・・こ、わいよ・・・・」

どうしていいかわからず、ぎゅっとベルの腕を握ると、ベルは唾液でしっとりと濡れた俺の耳元に優しく囁いた。

「みんな、その怖さを乗り越えて大人になるんだよ」

「そうしないと、大人になれないの・・・?」

「そうだね。」

「・・・俺、やだよ・・・・こわいのは・・・やだ・・・」


「こわくないよ。ベルが教えてあげる。大人になるってどういうことなのか」




「知りたくない?大人の世界のことを。大人たちがどんなことをしているかを・・・
「ベルは知っているよ。ずっと見てきたからね・・・」

「ベ、ル・・・・・?」

ベルはそう言って甘く甘く囁いた。
その姿まるで悪魔のように美しくて・・・目が離せなかった




「教えてあげる」

ベルの、媚薬のような声に抗えるほど
俺は強くなかった。















ベルは俺の服を一枚一枚丁寧に脱がしていくと、ベッドの上でぎゅっと抱きしめた。

心臓がドキドキとうるさくて、破裂しそうだった。
これから一体どんなことをするのか、何を教えてくれるのか
不安に駆られてベルを見つめると、穏やかな紫紺色の瞳があった。

「____。」

ベルは優しい声で俺を呼ぶ




答えようとして瞳をのぞきこむと、そっと唇が重ねられた。




教えてくれた通りに鼻で呼吸していると、咥内にぬるりと熱いものが入ってくる。
舌だ・・・!そう思った瞬間、巧みに舌を絡み取られ、痺れるほど強く吸われる

「んあっ・・・」

俺はびくりとして声を上げた。
その声があまりにも卑猥で、いやらしくて・・・・。

甘い刺激にぞくぞくとわななく口腔をベルは容赦なく掻き回していく。
身体がカッと火照り、目に涙がたまる。

「これが大人のキスだよ。」

口づけが終わるころにはすっかり息が上がってしまっていた。
初めての「大人のキス」はなんだか・・・とても濃厚だった

「・・・大人のキスって・・・すごいね・・・」

まだびりびりと痺れるような唇を押さえ、やっとのことで言うとベルは微笑んだ。




「もっとすごいことも知っているよ。」

「もっと・・・すごいこと・・・?」

「そう。ここ・・・」


ベルはそう言うと、細くしなやかな指を伸ばし・・・・俺のペニスを握りこんだ。

「っ・・・!」


ドキリとしたのも束の間、ベルは指を上下に動かし、強くこすった



「ぁっ・・・ん、あぁっ・・・!」

ひときわ強い刺激が走り、声が漏れる。
な・・・に・・・どう、して・・・

びくびくと体が打ち震え、蕩けてしまいそうなほど強く、甘い刺激に戸惑う




「どう、気持ちいい?」

「わ・・・かんなっ・・・・い」

「じゃぁ、どんな感じがする?」

「ぞわって・・・する・・・」

「それはね。気持ちいいっていうんだよ。
「____は感じてるんだね。ベルの手で快楽を得ているんだ。」




「うれしいな」

ベルはそう言ってまた微笑み、手を激しく動かす
紫紺色の瞳に、獣の情欲がにじみ出ていた。








もうどれくらい時間が経っただろう


ベルは熱におかされたように俺を弄りまわした。
体中を撫でくりまわし、甘噛みする

俺はあまりにも強い「快楽」に喘ぎ啼き、彼の下で身体を跳ねあがらせた。
溺れてしまそうな恐怖に駆られ、何度哀願してもベルは絶対にやめてくれなかった。




ベルが俺の身体に触れるたびに、びくん、びくんと反応してしまうことが、
喉の奥から声が漏れてしまうことが、もっともっとしてほしいと思うことが・・・
たまらなく恥ずかしかった。

もうどうにかなってしまいそうだった。






「やだぁっ・・・ベル、も、やめてぇ・・・っ」




もう何度目かの哀願。
先ほどまで俺の身体中を舐めまわしていたベルは、俺のペニスに舌を這わせ・・・吸っていた

「どうして?・・・そろそろだと思うけど?」


そう。なんだか・・・身体が変だった。

ベルの手によって快楽を与えられれば、与えられるほど
なにかがせり上がってくる感覚がして・・・追いつめられる感じがした

なにかが湧きあがってくる。痛いような、こわいような、猛烈な「なにか」が
すぐそこまで来ていて・・・

出て、しまいそうだった




「や、やだぁ!ううっ・・・出ちゃ、出ちゃうよぉ・・・んあっ」

「出したいんでしょ?いいよ。出しても。」

ベルがペニスをねぶるたびに全身が甘く痺れ、快楽の淵に追いつめられる

出ちゃう。出ちゃうよ
いやだ。見られたくない。なんか、からだ、へん
ああっ・・・いやだ

「やだぁ・・・!やめ、やめてっ・・・ゆるして・・・・・・・」




「いいんだよ。見ててあげる。出して?」

そう言って、ベルは先端を強くしゃぶった。


「や、べ・・・る・・・・!あっ・・・・・・・!」


もう限界だった



「あ、ああぁああああああっ・・・・!!」





俺は涎を垂らしながら絶叫した。
今まで感じたことがないほどの快楽に頭が真っ白になる。

と、同時にがくんと身体が震え、俺のペニスから何かどろりとしたものがびゅるびゅると噴出し
ベルの顎と咥内を白く汚した。


ベルは、ミルクのようなその液体をごくりと飲み込む。
顎に付いたものは丁寧に指でぬぐいとり、口の中へ入れた

あんなところからミルクが出るなんて・・・
俺は茫然とその光景を眺めていた。強い快感に圧倒され、身体が上手く動かない




そうして肩で息をしていると、
ベルはすっと手を伸ばし、涙とよだれで汚れた俺の顔を、優しくぬぐってくれた。




「よくがんばったね。」


穏やかな声と優しい紫紺色の瞳に
なにか強い感情が込みあげ・・・




俺はベルにキスをした

大人のキスなんかできない。だから、唇を重ねるだけのいつものキス。
何回も何回も、思いを込めて・・・

「ベル・・・」

「_____。」


ベルが俺に触れてくれることが、
俺の名前を呼んで、俺に語りかけてくれることが
たまらなくうれしかった。


思えばいつも思っていたのかもしれない
願っていたのかもしれない

”ベルが人間だったら”

ベルが人間だったら、きっと穏やかに微笑むのだろう
笑い合って、想い合って、優しい時間を過ごせるだろう

ベルが人間だったら、ベルが人間だったら・・・・


だから・・・





「俺・・・寮に入るのやめようかな・・・」

ずっとそばにいたかった。ベルと離れるなんて考えられなかった
これからもいっしょがいい・・・そう思わずにはいられない。

だけど、ベルは・・・




「わがまま言わないの」

髪を優しくなでながら、そんな俺をたしなめてくる

「もう、高校生になるし、オトナなんだから・・・」




わがままなんて言ってないのに・・・

そばにいたいと思うことが悪いことなら、大人になんかなりたくない
ずっと子どものままでいい

ベルと離れなくちゃいけないなら子どものままでいいよ・・・


そう伝えようとして、口を開くが・・・声が出ない
ベルの輪郭がぼやけ、視界が霞がかっていく

まぶたがとろとろと重くなり、強烈な睡魔が俺を襲う




ベルのあたたかな腕が背中をさする
それがうれしくて、愛おしくて、もっと何かを伝えたいのに・・・・まぶたが更に重くなる。


だめだ・・・
まだ寝ちゃ・・・・。ベルに何も伝えていないのに・・・

ベル・・・ベ・・・・・ル・・・・・・・





「           」


霞む視界の端に、ベルの優しい声が聞こえた気がした

















目を覚ますと俺は自分の部屋でひとり、眠りこけていた。


さっきまでのことは夢だったのだろうか?
狐につままれたような気分で体を起こすと、下着がぐっしょりと濡れていた。

下着を濡らしていたのはあのミルクのような液体だった

それを見たとたん、夢の中でのベルとの行為を思い出したが・・・
俺は首を振って、そのイヤラシイ妄想を振り払った

とにかくベルを探さないと

俺は手早く着替えを済ませ、ベルを探しに部屋を飛び出した。



だけど

家じゅう探してもベルはいないかった
町中探してもベルはいなった。
何日探し回ってもベルはいなかった。

いない。いない。いない。いない。


母親にそのことを告げると、彼女は悲しそうに瞳を伏せ
猫はシキが迫ると、そういうことがあるのだと俺に教えてくれた

母親の言っている意味がわからず、俺は聞き返そうとしたが
彼女がはらはらと涙を落とすのを見て、何も言えなくなってしまった。



ベルは一体どこへ行ってしまったんだろう?






それが

俺の初めての射精。
初めての恋だった。



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