2013年6月21日金曜日

【Spin off= M@o】 V・I・P ROOM 【中編:R-18】







【Spin off= M@o】 V・I・P ROOM 【後編】













アイリスに連れられてやっとのことで部屋に戻ってくると
安堵からか、腰が抜けてしまって、しばらくまともに動くことができなかった。


アイリスが用意した妙にベトベトしたはちみつ味の飲み物を飲んで
ソファに体を沈み込ませ、お気に入りのアロマを焚くと、やっとすこし落ち着いて物事を考えられるようになってくる




すると先ほどのことが妙に気がかりになってくる
あの男はどうなっただろうか?

まさか死んではいやしないだろうな


「おい、あんた・・・・・」

「はい」

「あいつのウチへ行ってこい」




「あいつ、と申しますと?」

「あいつはあいつだよ!あの、嫌らしい顔をした准教授だよ!俺にあんなことしやがった・・・・!」
「___あんた、あいつの家に行って灰皿を回収してこい」

「灰皿・・・ですか?」

「あいつを殴った血糊がべっとりついてんだよ。あんなもん回収されちゃ困るっつーの!
「くそ。馬鹿みてぇなことしちまったぜ・・・・!」

「____まあ、なんかあったら正当防衛ってことで処理されんだろ
「一応知り合いの弁護士の誰かにアタリつけておくか・・・・あいつらだって俺がこんなことでパクられたら困るだろうし___」




「・・・・」




「あ?何だよ。何か言いたそうだな?」



またその目だ

感情のこもっていない、怜悧な目

俺を責めるような、憐れむような


うんざりする


「___助けてもらったことに礼なんて言わねぇぞ?!
「あんたが俺を助けるのは当たりまえのことだ。何の意味もない」




「そんなこと、どうでもいいです
「それよりも____陛下。傷の手当をしたいのですが」

「は?いらねぇよ」

「このままでは化膿してしまいます。お顔に痕だって残ってしまいますよ」

「別にどうでもいい」

「だめです」



「いいっつってんだろ!」






「は・・・・?なんだテメェ。俺に反抗する気が・・・?
「一度ならず二度までも反抗するなんて、いい度胸してるじゃねぇーか!」

強情な態度に腹が立つ
俺がいいと言っているのだからそんなものいらないのに

俺の言うことがすべてなのだ
あんたはただそれに従っていればいい

なのに_______なぜ逆らおうとする?


「あんた・・・俺のこと舐めてんだろ?」

「舐めてません」




「じゃあなんだよその目は!!いつもいつもつまんなそうな顔して!俺を見下して・・・!
「馬鹿にして・・・・・!」

「馬鹿にしてなんかいません」

「してんじゃねーか!」


「いいえ」



「そんなこと、思ったこともありません

「だって俺は今_____」






「俺は今____怒っているのですから」




「は・・・・?」







大きな衝撃を感じて目を閉じる___

一瞬、何が起こったのかわからなかった。

信じられなかった


だって、こんなこと、ありえない


アイリスに頬を張られるなんて____





「テメェ!!なにしやがるんだよ!!いてぇじゃねぇか!!!糞が!!!
「ふざけんなよ・・・・!奴隷の分際で俺を侮辱しやがって!!!」

怒りが炎のように湧き上がる

いままで両親にも、教師にだってぶたれたことがなかったのに
何故俺がこんな・・・・!奴隷なんかにぶたれなきゃならない・・・・・っ!
屈辱に唇を噛みしめると___血の味がした

「絶対に赦さねぇからな・・・・!絶対に赦さねぇ!!
「あんたを一生、襤褸雑巾みてぇに扱ってやるよ・・・・!この家畜が・・・!」





「いいですよ

「俺をどうしようと、貴方の勝手です。お好きにすればいい



「____俺も好きにしますので」



「は?!あんた何言って・・・・・____」


そう静かに言い放つと、あいつはあろうことか






あろうことか___


肩に腕をまわして____俺をふわりと抱き寄せた





「なっ・・・・!あんた・・・・・!な、なにすんだよっ・・・・・!」

「ハグです」

「そんなの見りゃわかるっつーの!なんでハグなんか・・・・!
「クソっ!やめろ!」


「したいと思ったので」

「え・・・?」

「したいと思ったので、今、しているのです」

まるでそれが当然であるかのように言われて、ただただ戸惑う


「なんだよソレ・・・・・

「あんた・・・・何なんだよ・・・・っ」


強い力で抱きしめられ、息が苦しい
熱い。奴隷の体は、熱い
この熱から逃れようともがくのに、戒めはちっとも解けなくて


「それはこちらの台詞です」





「貴方は一体、何をしているんですか。こんな・・・・怪我をして・・・・・


「・・・もっと自分を大切にしてください」

「貴方がそんなだと・・・周りの者はどうすればいいのですか
「貴方を大切に思っている者が傷つく・・・そうは思わないのですか?」


囁くように、染み入るように、紡がれる言葉

それはとても あたたかくて、優しくて_____余計につらくなる




「・・・・・・っ」





「そんなやつ・・・いるかよ」


「え・・・?」




「そんなやつどこにもいねぇよ!!

「俺の周りのやつらなんて、みんなテメーのことばっかりのクソ野郎どもだ!
「俺のことなんてこれっぽっちも心配してやいねぇよ!!」

「やめろよ!なんなんだよあんたは!!

「さっきは俺よりセージを取ったくせに・・・・!
「ほんとはあんただって、俺のことなんてどうでもいいんだろう!!?」


俺には誰にもいない
俺のことを心配してくれる人なんて、俺のことを求めてくれる人なんて

誰もいない

誰からも愛されない


___ひとりぼっち







「離せ・・・!離せよ!こういうことされると余計惨めになるんだよ!!!

「やめろよ!やめろ・・・・!



「やめろ・・・・・・」



憐みなんかいらない。同情なんかいらない
優しさなんか___いらない

上っ面だけの薄っぺらいものなんて、なんの救いにもならない
そんなものほしくない


俺のほしいものはいつも____

手に入らない






「・・・・」



「俺は___セージさんを取ったわけではありませんよ?」

「え・・・?」




「あの時貴方を止めたのは、あれ以上暴力をふるうと
「貴方自身が傷つくと思ったからです。
「命令を聞かなかったのは、貴方の心にしこりを残すことになると思ったからです


「は・・・・・・・?何言ってんだあんた・・・俺が傷つく?しこりが残る?そんなわけ・・・・・___」


「人を傷つければ傷つけるぶん、貴方も傷つくんですよ」

「___俺は貴方を傷つけたくない」





「・・・・・・・嘘だ!


「あんたは本当はそんなこと思ってなんかないくせに・・・

「俺のことなんかどうでもいいくせに・・・・・っ!」


信じられない
誰のことも信じられない

人間ほど、不確かで狡い生き物はいないのだから


「そんなことはありません。でも___」






「俺のことが信じられないのなら___信じなくて、いいですよ」



「っ・・・・!」






「嫌っていいですよ。疑って、いいですよ
「ただ、これからどんなことがあってもこれだけは覚えていてください。

「いつまでも俺は貴方の奴隷で____貴方の味方です」




「俺は貴方が大切です

「これ以上、貴方を傷つけたくありません。


「だから___もう、誰かに暴力をふるうのはやめてください」

「自分を、傷つけないでください_____」










信じない。

俺は、あんたなんか信じない


あんたの言うことは全部まやかしだ
全部嘘っぱちだ

この腕が力強くて、あたたかいのも
俺の背中を愛おしげに、優しく撫でるのも___

ぜんぶぜんぶ、嘘っぱちだ


信じない

信じない!信じない!信じない!信じない!信じない!






でも______

















俺は・・・・・

助けてほしかった
叱ってほしかった


誰かに止めてほしかった


どんどんどんどん転がり堕ちていく俺を止めてほしかった




誰かに俺のことをちゃんと、みてほしかった・・・・













































誰かが髪を優しく梳いてくれている
誰かが腕をゆっくり撫でてくれている

心地よい

ずっと・・・・そうしていてほしい___


あたたかで
やさしいまどろみ



「ん・・・・・」






「・・・っ」


「おはようございます。陛下
「___起こしてしまいましたか?」

「いや・・・」






「灰皿を回収してきました。後程処分いたしますのでご安心を
「それと___教授の容態ですが、安定しているようです。」

「あんた・・・・あいつを医者にみせたのか?」

「ええ、すみません」

「チッ・・・・。めんどくせぇことしやがって」


「もし、なにか不都合がありましたら、きっとご両親がお力添えをしてくれるかと」

「わかってるよ、んなこと・・・・」






____ふいに沈黙が訪れ___ドキリとする


俺はいつの間に眠ってしまっていたんだろう

最近はほとんどまともに眠れていなかったのに。
なんでこんな・・・・こいつの腕のなかで・・・・・・・

泣き顔、見られてしまっただろうか
変な寝言なんか、言ってしまっていないだろうか


人の体温はこんなにもあたたかっただろうか






「__なにか飲みませんか?
「簡単なものならすぐにご用意できますが」

「・・・・あ、・・・・ああ、じゃあ頼む」


すると気が緩んだのか
胃からきゅるきゅるとまぬけな音が響いてきて___俺は赤面してしまった





「・・・・・っ・・・・!」

そういえばずっと食事をとっていなかった
クラブでも軽いドリンク程度しか口に入れていなかったし・・・・

ほとんど飲まず食わずで体を酷使していたことに気付くと、更にきゅうきゅう腹が鳴ってしまい・・・
俺は涙が出そうなほど恥ずかしかった


「ご一緒に軽食などはいかがです?こちらもすぐにご用意できますので」


アイリスはそんな俺の様子など知りもしない顔で
俺をそっと抱き起してソファに座りなおさせてから___食事の支度にとりかかった



アイリスの腕の中から解放されて、やっと一息つくことができる





しかし、冷静になればなるほど
悔しさと気恥ずかしさの波が湧き上がってきて___

俺はまだひりひりと痛む唇を噛みしめた


くそ・・・・・っ!


腹を鳴らしてしまったこともそうだが
あいつの腕の中で泣いてしまったことが・・・・なによりも恥ずかしくて、悔しかった

このマオ様が・・・・あんなやつに慰められて・・・
まるで子どものように泣きじゃくってしまうだなんて・・・・・!

あいつの記憶をすべて消してしまいたい!
俺に魔法が使えていれば、すぐにでもそうしていただろう


そんなことをじりじり考えていると
アイリスが食事の乗ったトレーを運んできてテーブルの上にコトリと置いた




「お待たせしました

「「アンジュ・エール・ベーカリー」のバタークロワッサンとオレンジジュース
「はちみつ入りホットミルクです」


「またハチミツか・・・・」


俺はメニューを聞いてため息をついた


部屋についたときに、ハチミツ入りのなんだかよくわからない飲み物を飲んでいたので
正直ハチミツはもう欲しくなかった




「___そういえばあんた、
「なんでハチミツの入ったもんばっか用意すんの」


そうだ。

アイリスはことあるごとにハチミツの入ったものばかり食べさせようとする

以前作らせた料理にもハチミツがねっとりと練りこまれていたし、
ホットミルクにはいつもハチミツが入っている

どうしてそんなにハチミツ入りのものに固執するのだろう?
何かジンクスでもあるのだろうか?



目を丸くして問いかけた俺に___アイリスは目を細めながら答えた





「お好きだと言っていたじゃないですか」



「え・・・?」

「お好きなのでしょう?ハチミツが」





「教えてくださったじゃないですか
「初めてのデートの時に」






「え・・・・?」






そういえば・・・・こいつとの最初のデートで
「ハチミツが好きだ」と言ったことがあったかもしれない



こいつ、それを覚えて・・・・

俺が好きだろうと思って、出していたのか・・・・?




ハチミツが好き、だなんて 口からでまかせだった


むしろあまり好きではない
べたべたと口に残るし、妙に甘ったるい

自ら好き好んでハチミツを摂ろうなどとは思わない






だけど_____







「あれ、もしかしてあまりお好きじゃありませんでしたか?
「でしたらお下げしますが・・・・」





「___うっせぇな つべこべ言ってねぇさっさとこっちへよこせ」















今日くらいは我慢してやってもいい

かも、しれない